[1-4]土地の価値を考える手順_土地の価値とプレーヤー

凡眼には見えず、 心眼を開け。好機は常に眼前にあり。

藤田 田 (1926年3月13日 – 2004年4月21日) 
日本の実業家。日本マクドナルドや日本トイザらスの創業者。

前回([1-3] 不動産投資におけるエリアの価値)に続き、不動産の価値を考えるシリーズです。この記事では土地の価値について考えます。都心の一棟収益不動産が投資対象であっても、その物件を土地と建物に分けて考え、土地単体(更地)の価値を把握しておくことは投資判断において重要です。特に築古物件の場合、出口価格は土地値に収斂しがちなので、一棟物としての利回りや税引き後CFだけでなく、毎年の純資産の増加額を推定するために、実勢土地値に加えその土地の根源的な価値を取得前に見定めておきましょう。

土地取引=”見えないもの”の売買 ⇒ 土地=劣化しない資産

我々は日々、生業として土地を取引するわけですが、いったい土地の「何」に価値があるのでしょうか。

上記画像は2020年10月現在、40億円で売りに出されている新宿歌舞伎町の土地です。売主がそれくらいの価値があると考えたからその売値がついている訳ですが、よく考えると写真の茶色い部分(土や砂)にその価値があるのではありませんよね。

では、多くの土地の「何」に価値があるのか。それは土壌そのものではなく、そのエリアの特定の区画の利用権(所有権)という“権利”に価値があって価格がついています(そして、それが別の権利、制限された権利となると、大幅に価値も価格も落ちます。例えば借地権や再建築不可の土地です)。

土地は実際に見えてしまうので、それを売り買いしているように錯覚しがちですが、我々はいつも権利の売買をしているのです。そして最も重要なことは土地は建物などのモノではなく権利なので、経年劣化しない資産ということです。一般的に資産として認められ、融資もつき、経験劣化もしない。個人的には土地は反則技のアセットだと思っています。

一棟収益不動産は土地(経年劣化しない資産)と建物(経験劣化する資産)に分けられますが、同じ投資額で同じ利回り、同じエリアの2つの物件を比べたとき、経年劣化しない資産である土地値割合が大きい物件のほうが良いです。次に取得される人も、土地値割合を見ているでしょうし、そのまま自分が耐用年数を超えるほどに長期で保有した場合でも、ダウンサイドが土地値前後で限定できるからです。土地値割合が高い物件は土地値割合が低い物件と比べると、当然出口価格は高くなり、投資全体でみるとよい投資になります。

土地の価値を考える手順

私が土地の価値を考えるときは、エリア・立地から考えてどのような価値が主体になっている土地で、どのような人が買うかを予想する→その土地の基本情報を確認+その土地の最適な用途を考えてみる→最大どれくらいの建物が建つかボリュームを調べてみる→建築費を推定する→更地に自分が建てるとしていくらなら事業的に成り立つか考える、という手順を踏んでいます。この記事も含めて、これから数記事に分けて書いてみます。

その土地はどんな価値を期待されて、どのような人が買うのか。

これは多くの不動産投資家の方が無意識にされていることかもしれません。「ここは閑静な住宅地だから、こういう人が買うだろうな」というような土地イメージの分類とプレーヤー(主な買い手)の予想です。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 不動産の価値-2.jpg

前々回の記事([1-2] 不動産の3つの価値(エリア・土地・建物))で、私は不動産の価値を上の図のように考えていると書きました。エリアの価値に土地の価値、建物の価値がのっています。

この図のように、土地の価値は

  1. 利殖価値:お金を殖やす
  2. 資産価値:資産(富・お金)を保存する
  3. 利用価値:実需(自己使用)、所有することによるステータス

の、3つの価値の組み合わせなのではないかと考えています。そして、エリア・立地によってそれぞれ期待される価値の割合は全く異なります。

例えば、3の利用価値というのは、戸建が多くある住宅地などをイメージしてください。お金を殖やすのでもなく、資産の保存保全でもなく、自分がこのエリアに住みたい、子育てによいからこの地域に家を建てたい、などのニーズがありその特定の土地に価値がでてきます。土地の価格も収益還元的な見方でなく、近隣との取引事例比較で決められます。しかし、住宅が並ぶ地域でもエリアによっては2の側面が大きくなります。例えば、芦屋などの高級住宅地、京都の別荘地である南禅寺などでは、利用、所有することによるステータスに加え、2の資産の保存という価値も大きいはずです。

2の土地の資産価値(+3のステータス)に重きをおかれて取引されるのは、やはり銀座や恵比寿、虎ノ門などのネームのあるエリアのよい立地のものです。「低利回りで全然いい。大きく損しなかったら別にいい。まぁ、あわよくば値上がりしてキャピタルとれたらいいけど。とりあえず手元のお金をインフレに備えて不動産に変えとくわ。何より銀座にビル持ってるってかっちょいいしな!」みたいな感じです。所有者の人物イメージとしては儲かっている企業の社長などでしょうか。

また、投資ファンドなどは1利殖価値寄りの2資産価値のある物件を資本力で割安に買っているイメージです。私募ファンドは投資家から資金を集めて、そのお金で取得した資産を数年で売却して投資家に返さなければならないので、値下がりするリスクの高い物件を買うわけはにはいきません。なので、低〜中利回りであるが、資産価値も見込めるような物件・土地を取得します。

そして我々一般の不動産投資家・不動産賃貸業者が求めるのは1の利殖価値です。お金を殖やす、生活費を得る、資産を殖やすことを一番の目的とします。そのような利殖目的で投資される土地にもピンからキリまであって、投資家の投資スタイルによって好まれるエリア・土地は全く違います。

例えば、ご年配の資産家が年金代わりの安定収入を得る手段として不動産を取得される場合、築浅・利回り6%前後・入居者属性良し、など問題のないピカピカの物件を取得されることが多く、求められる土地もイメージのよいエリア・立地のものになります。その他、相続税対策で不動産を取得される層もこのタイプに近いです。

またメガ大家さんなどの積極的に資産を増やそうというタイプの方は、2020年のご時世でも8-9%と利回りも高く、しかし2等地程度で資産価値もそれなりにあって大きな値下がりはしにくい、しかも融資はつく、と思われる商業地の出物物件を狙っています(最近ありませんが。

築古や問題物件を積極的に扱う投資家は、あまりよくないエリア・立地の土地で現金を多少多くいれて取得、自らの腕でバリューアップし、数十%という驚異的な利回りでキャッシュフローを多くとっていたりします。

なぜ土地の価値の種別とプレーヤーの把握が重要か

それは利益を生むからです。その土地の見出される価値も購入主体も違うとなれば、それは同じ不動産でも市場が違うということです。そして、異なる市場をまたぐような取引は儲かることが多いです。

例えば

「高級住宅街の近くに建つ築31年鉄骨造3F建賃貸マンション土地60坪の物件が耐用年数間近ということもあり12600万円利回り9.5%で売りにでているけれども、実は更地だと実需の住宅用地として坪250万円=15000万円は堅い。なんとか融資をつけてCFを得つつ、残債が減った段階で更地にして売れば、解体費・立退料等を考慮してもトータルで4000万円は利益がでるだろう」というような感じです。

この場合は収益還元価格で買って実需価格で売る、ということですね。このパターンは利益を生むことが多いです。

このように、自分がこれから買う物件について、将来誰がどのような目的で買ってくれるだろうか、と出口を想定しておくことは非常に重要です。

土地の価値を考える手順まとめ

  • 土地売買は権利の取引。つまり土地は経年劣化しない。仮に同じ投資額、同じエリア、同じ利回りの一棟収益不動産が2つあったら、土地値割合が大きい方を選ぶ。なぜならダウンサイドが土地値に限定されるから。
  • エリア、土地によって求められる価値、それを購入する人の層は違う。それは同じ不動産でも違う市場ということ。利殖価値、資産価値、実需価値。異なる市場間での売買は利益を生むことも多い。
  • 自分が物件を取得するときには、出口のことをきちんと考えて買うようにする。

次回記事([1-5] 不動産投資家のための土地のチェックポイント107項目)では、この記事の続きとして土地の基本情報を確認する作業を考えてみたいと思います。宜しくお願い致します。